旅立ちの前、僕は人生を整理する―【終映日:2022年11月18日(金)】
【原題】De son vivant
【監督】エマニュエル・ベルコ
【キャスト】カトリーヌ・ドヌーヴ,ブノワ・マジメル,セシル・ド・フランス,ガブリエル・サラ
2021年/フランス/122分/ ハーク=TMC=SDP/DCP
11月05日(土)〜11月11日(金) |
10:45〜12:50 |
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11月12日(土)〜11月18日(金) |
09:00〜11:05 |
一般 | 大専 | シニア | |
通常 | ¥1,800 | ¥1,500 | ¥1,200 |
会員 | ¥1,500 | ¥1,200 | ¥1,200 |
死は誰にとっても平等に訪れる、避けて通れないものだ。だが、実際は心の準備ができている者など、ほとんどいないに違いない。とくにそれが不治の病のように、考える時間があればあるだけ、人は動揺し、悲しみに打ちのめされたり、人生の不条理に怒りを覚えるのではないか。
フランスを代表する名女優カトリーヌ・ドヌーヴと、本作でフランスのアカデミー賞にあたるセザール賞最優秀男優賞を受賞した演技派、ブノワ・マジメルの共演によるこの物語は、癌を宣告された主人公とその母親が、衝撃や悲しみを克服しながら、限られた時間のなかで人生を見つめ直し、「人生のデスクの整理」をしながら、穏やかに死と対峙できるようになる過程を感動的に描く。
監督は、『太陽のめざめ』(2015)でカンヌ国際映画祭のオープニングを飾ったエマニュエル・ベルコ。この作品ですでにドヌーヴとマジメルを起用したベルコは、今回も「監督が彼女ならば」と、ふたりの俳優から絶対的な信頼を寄せられた。また主人公を献身的に看病し、愛情を寄せる看護婦役には、『ロシアン・ドールズ』『モンテーニュ通りのカフェ』などで知られるセシル・ド・フランス、そして主治医のドクター・エデ役には、実際に現役の癌専門医であるガブリエル・サラが扮しているのも話題だ。
本作の最大の見どころは、マジメルとドヌーヴの鬼気迫る演技だろう。日に日にやつれ、朦朧として行く様を、心身共に見事に表現したマジメル。とくに病室のベッドで、風前の灯のなか、もはや解脱したかのように天を見つめる眼差しは、言葉を失うほどに見事である。そんな彼を見守り、時に医者の前で泣き崩れるのを止められない母の姿を体現したドヌーヴもまた、これまでのイメージを覆すような領域に達している。
ドクター・エデとバンジャマンの対話も、もうひとつの見どころだ。ベルコ監督が、偶然ガブリエル・サラに出会ったことが本作を制作する上で大きなきっかけになったと述べているように、映画のなかの彼の患者に対する姿勢や、その発せられる言葉は、彼自身の哲学から生み出されているところが大きい。日本の医療現場では想像しづらい、患者たちのためのタンゴの公演会や音楽によるセラピー、看護師たちの精神的負担を和らげるような明るいミーティング風景も、実際に彼が病院で企画していることだという。わたしたちは彼が語る言葉のひとつひとつに宿る説得力、その大きな包容力と誠実さに、心を打たれずにはいられない。
死を語ることで逆説的に生を描き、その尊さを見つめる。ベルコ監督は、「この映画は人生の讃歌だ」と語っている。観客は映画を観た後、昨日とは異なる視点で人生を見つめ直すことになるだろう。そして生きていることのありがたさと喜びを、あらためて噛み締めるはずだ。
【STORY】
死を見つめること、それは生を見出すこと
ありがとう、愛してる、そして―
バンジャマンは人生半ばで膵臓がんを宣告され、母のクリスタルとともに、業界でも名医として知られるドクター・エデを訪れる。彼に一縷の希望を託す母子だったが、エデはステージ4の膵臓がんは治せないと率直に告げる。ショックのあまり自暴自棄になるバンジャマンにエデは、「命が絶える時が道の終わりですが、それまでの道のりが大事です」と語り、病状の緩和による生活の質を維持するために化学療法を提案し、「一緒に進みましょう」と励ます。
一方、母親のクリスタルは、息子が「不当な病」になったのは、自分のせいではないかという罪悪感に駆られる。彼女には、バンジャマンが若くして当時の彼女とのあいだに子供を作ったとき、息子の将来を思うあまり、彼らとの仲を引き裂いた過去があり、そうした心労を与えたことが病に繋がったのではないかと悩む。だが、ドクター・エデの助けを借りて、クリスタルは息子の最期を出来る限り気丈に見守ることを心に決める。
(C)Photo 2021 : Laurent CHAMPOUSSIN - LES FILMS DU KIOSQUE
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